演劇界の鬼才・蜷川幸雄氏の長女である蜷川実花監督。
映画2作目の「ヘルタースケルター」が大ヒット、そして、話題のNetflix「Followers」が、来年配信予定である。
その蜷川実花が、初の男性主人公の藤原竜也を迎えた今作。
蜷川監督を、「彼女となら心中してもいい。」と、いわしめた新たなミューズが、スクリーンの中で、可憐に力強く躍動する。
映画を観ていると、次第に、彼女の魅力に引き込まれていく。
彼女が、懸命に生き抜く姿、そして、弱い自分と向き合う姿が、共感を呼ぶのだ。
命がクズ同然に扱われるこの食堂で、客の欲望も生死も支配する店主が、元殺し屋の天才シェフ…最強の男ボンベロ。
蜷川幸雄の舞台の常連であった、藤原竜也が熱演する。
何となく生きて、何となく答えを出している現代特有の感覚。
自分の中の空っぽな部分と戦い、向き合い、考えて決断し、芯を持って生きる。
そこを描きたかったと、蜷川実花監督は語っている。
その最大のトリガーは、ボンベロとの出会い。
突き放され、不安や恐怖と戦いながら、本当の自分の夢を探し、一歩進もうと決断する。
誇り高き孤高の王…ボンベロ。
その料理の腕や作品も、見どころである。
大王と呼ばれる山形出身の後藤ひろひとが、脚本に入り、平山夢明の原作は、さらに輝き出す。
美術も音楽もこだわりがあり、アクションとサスペンスのエンタテインメントであるが、どこかアートを感じさせる、ディナーの料理とワインの後味が、身体に不思議な満足感を与えくれるような作品である。
しっかりとゆっくりと、身体に注ぎ込む良質のワインのように、楽しんで欲しい映画である。
ムービーオンで、是非、ご覧いただきたい。