東京国際映画祭で最優秀監督賞と最優秀男優賞作品「ジャスト6.5闘いの証」の評価は群を抜いていた。
傑作を次々出しているイラン映画は、アート映画を取り込みながら、スケールの大きい商業映画として確立し続けている。
また、「ウォーデン消えた死刑囚」は、イラン国内の映画賞を総なめにした。
30代の若き監督達が製作した2作品は、イラン映画を世界的ステージに押し上げたのである。
これらの映画が製作された2019年頃は、イランの政治は転換期を迎え、貧富の差や犯罪の増加はすごく、イランの隣国のアフガニスタンで作られた麻薬はイラン国内の貧困層を蝕み、100万人から、6.5倍の650万人まで、麻薬中毒者が急増している。
「ジャスト6.5」での、逃げる犯人が工事現場の大きな穴に落ち、ブルドーザーで大量の土砂を流し込み生き埋めにされるシーン。
「ウォーデン」での、飛行場建設の為に取り崩す刑務所から行方不明になった死刑囚も、いずれは刑務所で生き埋めにされる状況であった。
どちらも、人や命を簡単に「生き埋め」にするというモチーフを含んでいるという。
人間の心の欲と闇の二面性、そして、ちょっとしたことで、生と死の境界線を超えてしまう恐ろしさを感じる描写がとても上手い。
どちらの作品にも、「死刑囚」と「死刑台」が、シンボリックに登場する。
また、昇進を目の前にしている主人公が、昇進すること以上の出来事に巻き込まれていく。
サイード・ルスタイとニマ・ジャウィディの、2人の若き監督の心象風景が、まるで重なっているようであるのだ。
「ジャスト6.5闘いの証」の、人間の持つ熱量の凄さを改めて感じる。
また、セリフの多さと、喧騒や工事現場、さらには自動車の現場音が大きく、圧倒的な情報量を持っている。
何よりも、麻薬犯罪を取り締まる警察官と、麻薬犯罪グループのリーダーの駆け引きや感情の表現が俊逸であった。
「ウォーデン消えた死刑囚」は、刑務所を取り壊し、新たに飛行場を建設する為に、死刑囚を移転させるところから始まる。
刑務所長をウォーデンと言うらしいが、まさに、刑務所長の人間性の全てを表す映画となっている。
ハリウッド映画、フランス映画、韓国映画、そして邦画とは、まるで違うテイストであり、極上のお酒のようなイラン映画。
「ジャスト6.5闘いの証」は、ムービーオンでの上映が終了したが、「ウォーデン消えた死刑囚」は、まだ上映中である。
最高の非日常を楽しんで欲しい。