映画の上映中に、大きな笑い声のおばさん方は、時々いらっしゃるが、男性のおじさん方の大笑いが、シアター内に広がるのは、これまであまりなかった。
しかし、この映画「終わった人」は、壮年の男性の笑い声が絶えない映画であり、なんか嬉しくなるのだ。
主演は、自分が勝手に兄貴だと言っている「舘ひろし」さん。
天童の野口美樹さんの兄貴分。
野口美樹さんは、自分の姉貴分だから、舘さんは兄貴となると、前回「あぶない刑事」で山形入りした時、四山楼での夕食の時そんな話をした。
今回の舘さんの役は、「西部警察」や「あぶない刑事」シリーズで演じてきたスタイリッシュでハードボイルドな役柄とは180度違い、出世コースからから外れて、そのまま定年を迎えていく「情けない男」である。
「定年って生前葬だな…」
この衝撃的な書き出しで始まり、定年を迎えたエリートの悲哀を綴って大反響を呼んだ「終わった人」
大河ドラマ「毛利元就」や、NHK連続テレビ小説「ひらり」など、数々の脚本を手がけヒット作を世に出してきた内館牧子による、シニア世代に目を向け、シリアスかつユーモラスに描いた定年小説の待望の映画化である。
一流企業のエリート街道を歩んでいた舘ひろし演じる田代壮介は、同期のライバルに負けたことで出世コースから外れ、子会社に出向させられてしまう。
そのまま銀行に戻ることなく、ついに定年の日を迎えてしまった。
「やることがない…」
公園、図書館、スポーツジム、美容師の妻千草(黒木瞳)を迎えに行って愚痴をこぼす。
そんな夫から距離を置く、妻の千草。
「愚痴ばかり言っているあなたは嫌い!」
そんな、田代壮介にチャンスが。
東大出の銀行出身という肩書きに、IT企業の顧問のオファーがある。
妻から髪を染めてもらい、蘇る田代。
恋も始まる。
しかし、人生は中々思うように行かず、彼は生まれ故郷の岩手県盛岡市に帰る。
妻とは「卒婚」をして…。
彼を癒してくれたのは、故郷の仲間たち。
エリート意識が強かった田代。
そんな田代に、みんな歳を取り定年を迎える。
みんなの人生に、そんなに差はない。
そんな事に気づかされていく。
定年は大きな節目。
歳を取ることも、何かを失っていく。
加齢臭、髪が抜ける、腹が出る。
そんな肉体的老化に、社会的に「不用」と言い渡されるのが定年。
そんな精神的にも肉体的にも、大きな節目を、どう向き合い受け入れていくのか。
まだまだ、終わることができない男たちが、様々な努力と葛藤が、嫌味なく観客に伝わる。
「リング」の有名になった中田秀夫監督。
定年後の人生をどう生きるか…。
そこに力点を置いて撮りたかった映画です!
観ている人に、「あなたなら、どうしますか?」を問いかける映画ですから、考えて欲しいと言う中田監督。
布袋寅泰が作詞作曲した歌を、今井美樹が歌う。「あなたのままでいい」
とても素敵な歌が、エンディングを飾る。
まさに定年後こそ、クリエイティブな人生なのかな…一抹の寂しさを感じながら、そう思った映画である。
カッコいい舘ひろしの兄貴もいいが、今回の人間味の溢れる舘さんも、とても良かった。
是非、全世代の方々から観て欲しい!