親子、家族をめぐる光と闇にまつわるテーマを、ごく普通の母親が日々抱える葛藤から、赤裸々に抽出し描した問題作が、社会派の瀬々敬久監督作品の「明日の食卓」である。
瀬々敬久監督は、自分と同じ1960年生まれで、4ヶ月早く、自分が先に生命を授かる。
2009年の「感染列島」のキャンペーンでムービーオンに来られた時に初めて出会い、その日の夜に食事をした。
京都大学文学部哲学科出身だけに、地頭は抜群に良いと思ったし、不器用な無骨な漢に見えるが、実は繊細でしなやかで、生命の香りや魂のヒダを知っている感じた。
その一度の出会いが、その後のご縁に繋がっている。
2010年の各映画祭で高い評価を得た「ヘブンズストーリー」は、岩手県や山形県で撮影をされ、当時、岩手ケーブルテレビジョンやケーブルテレビ山形(現ダイバーシティメディア)で、ロケのサポートをした。
自分たちも、製作委員会に参加し、瀬々監督と同じ船に乗れたと思っている。
「菊とギロチン」も、山形県の天童市が女相撲の発生の場所だけに、参加したかったが、出資など、十分話せなかったのを悔やんでいる。
瀬々監督は、「8年越しの花嫁」や「糸」といったラブストーリーも抜群に上手い。
一方で、「64(ロクヨン)」や「有罪」や「楽園」などの社会派の映画も見事である。
また、「ヘブンズストーリー」な「菊とギロチン」は、瀬々監督が世の中に放ちたい作品だと思う。
それぞれの映画は、同じ監督の作品とは思えない幅を感じるのである。
本作品には、3つの家族が登場する。
住む場所も年齢も、収入も仕事も、暮らしぶりもまったく違う家族。
3つの家族の共通点は、名字が「石橋」で、子どもの名前が、悠宇・勇・優の「ユウ」で、3人とも同じ10歳なのだ。
母親役は、神奈川在住43歳のフリーライターの菅野美穂、大阪在住30歳のシングルマザーの高畑充希、静岡在住36歳の専業主婦の尾野真千子。
3家族とも、子育てをしながら忙しくも幸せに暮らしていた。
しかし、些細な事から、徐々に生活が崩れていく。
歯車が狂ってしまう中、旦那の本質や、周囲の心が見え出し、子どもの考えと自分の考えが違う事に気がつき出す。
矛盾は葛藤となり、不信感は次なるカオスを生む。
しかし、余計なものを削ぎ落とす過程の中、自分の真実の思いに気がついていく。
そこには、希望があるのか….。
どこにでもある日常の風景、そして食卓。
考えさせられる映画である。
ムービーオンやまがたで、上映中!